頻回に鎮痛薬を
使用することで
頭痛が悪化するケースもあります
頭痛の専門的な診療(頭痛外来)はなぜ必要なのでしょうか。もちろん頭痛に対する専門的な知識と技術をもって正しく診断し、そして適切に治療することで患者さんの頭痛による苦痛を改善するためです。
では頭痛の正しい治療とは?
起こっている頭痛に対して鎮痛薬を使用して痛みを緩和させる。これは厳密に正しい治療ではありません。もちろん対応として間違いでは決してありませんが、では毎回頭痛が起こるたびに鎮痛薬を使用して痛みをなんとかやり過ごせばよいのでしょうか?たとえ毎日でも?
答えは“No”です。
そうした頭痛への対応は明確な“間違い”です。なぜなら、頭痛に対して頻回に鎮痛薬を使用することで、頭痛が改善するどころかむしろ悪化し、「片頭痛」や「緊張型頭痛」などのもともとの頭痛病名の他にさらにもう一つ病名が増えるからです。
「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」です。この薬剤の使用過多による頭痛は非常に厄介であり、頭痛持ちの方のなかでも極めて重症の状態であると考えなければなりません。
頭痛が頻回に起こり全く改善していないことに加えて”薬物依存状態”に陥っているからです。
薬剤の使用過多による頭痛と診断された場合または該当している場合、早急に頭痛専門外来で治療を開始しなければなりません。
薬剤の使用過多による頭痛の疫学
日本における薬剤の使用過多による頭痛の年間有病率(どれぐらいの患者数がいるのか)についてはまとまったデータがありません。
海外のデータでは薬剤の使用過多による頭痛の年間有病率は1~2%とされており、慢性連日性頭痛の25~50%を占めています。また頭痛外来や頭痛センターでのMOH患者の割合は30~50%とされています。
喫煙習慣、運動不足があると薬剤の使用過多による頭痛の有病率は2倍以上になるとされ、低所得や教育歴の低さも薬剤の使用過多による頭痛のリスクであると報告されています。
薬剤の使用過多による頭痛の診断
以前から一次性頭痛をもつ方において、急性期または対症的頭痛治療薬を3か月を超えて定期的に乱用(治療薬の種類によって、1ヵ月に10日以上または15日以上)した結果として、1ヵ月に15日以上頭痛が生じている状態です。
通常、その薬剤の乱用を中止すると頭痛も改善します。
1ヵ月に15日以上使用してはいけない薬剤
- アセトアミノフェン
- 非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs(ロキソプロフェン等)
1ヵ月に10日以上使用してはいけない薬剤
- トリプタン
- ジタン(レイボー)
- エルゴタミン
- オピオイド
- 複合鎮痛薬
診断基準
- A 以前から頭痛疾患を持つ患者において、頭痛は1ヵ月に15日以上存在する
- B 1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を3か月を超えて定期的に乱用している
- C ほかに最適なICHD-3の診断がない
薬剤の使用過多による頭痛の治療
薬剤の使用過多による頭痛の治療原則は下記の3つです
原因となっている鎮痛薬の乱用をまず早期に中止する必要があります。しかし、頭痛があるのに鎮痛薬を使用することができなくなるわけですから、当然その部分に対するケアが必要となってきます。そこで重要となるのが、適切な予防療法というわけです。
① 原因薬剤の中止
トリプタン、非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs、複合鎮痛薬、単純鎮痛薬では、薬剤中止による重度の離脱症状をきたさないため、即時中止が推奨されています。多くのMOH患者さんでは単純な情報とアドバイスのみで頭痛の改善を達成できるため、外来での即時中止がよいとされています。
一方でバルビツール、ベンゾジアゼピン、オピオイドの過剰使用、急性期治療薬の長期間の過剰使用、過去に外来で離脱を失敗した経験のある場合、精神疾患の合併などでより複雑な状況である場合などは入院での離脱が望ましいケースもあります。
② 薬剤の中止後に起こる頭痛への対処
強い片頭痛発作がみられる患者さんの場合では、適宜トリプタンを使用することは日常生活支障度を改善するためなかなかすぐに“使用しないように!”とするのは無理がある場合があります。その場合には患者さんとよく相談しつつ使用回数を制限することから始めます。また悪心や嘔吐など離脱による症状が強い場合には点滴・制吐薬・鎮静薬・ステロイドによる治療を行うことがあります。
③ 予防薬投与
原因薬剤からの離脱を成功させるために極めて重要なのが、適切な予防療法の実施です。
こちらは「片頭痛」、「緊張型頭痛」の治療でご紹介したものであり、患者さんの状態・重症度を考慮しながら、よく相談しつつ治療を進めます。
※ときどき患者さんから予防療法について質問があるのが、「“薬の使用を減らすように”という治療なのに、予防薬を毎日服用してよいのか?」ということです。たしかに少々やや不安に感じられるかもしれませんが、現在薬物乱用に陥って依存状態となっている薬剤はあくまで鎮痛薬(痛み止め)です。使用回数を減らさなければならないのは鎮痛薬なのです。よって痛み止めを使用したくなるほどの強い頭痛が起こる回数をそもそも減らすために予防薬を使用するので、予防薬はしっかりと服用していただく必要があります。そして予防薬は毎日・長期間服用しても依存は生じませんのでご安心ください。
薬剤の使用過多による頭痛の予後
薬剤の使用過多による頭痛は離脱療法によって1~6カ月間で約70%が改善(乱用から脱出)しますが、4~6年間で約30%が再発し、その多くは離脱後1年以内の早期に起こっています。そのため、離脱後も頭痛ダイアリーなどの頭痛評価ツールを用いて定期的に薬剤の使用頻度の確認や患者さんへの教育が必要です。
頭痛ダイアリーをぜひご活用ください
頭痛ダイアリーとはその名の通り日々の頭痛に関しての日記帳です。
頭痛ダイアリーを記録することで、①頭痛日数、②頭痛の正常、③痛みの強さ、④持続時間、⑤随伴症状(頭痛に伴って起こる他の症状)、⑥誘発因子(頭痛が起こる原因・条件)、⑦薬剤使用状況、⑧生活支障度などを具体的に確認することができます。
そのため診察する医師にとっては通常の問診のみと比べて個々の頭痛に対する正しい診断率の向上に役立つだけでなく、患者さん本人にとっても自身の頭痛が生じる傾向が把握できることがあります。頭痛が重度であればあるほど頭痛診療にとって必要不可欠ともいえるツールですので、ぜひご活用ください。
薬剤の使用過多による頭痛の『再発しやすい要因』と『失敗しやすい要因』
薬剤の使用過多による頭痛を再発しやすい要因
- 緊張型頭痛である
- オピオイドを乱用している
- 精神疾患がある
- 薬剤の使用過多が長期間に及んでいる
薬剤の使用過多による頭痛の治療(離脱療法)が失敗しやすい要因
- 独身者
- 失業者
- 薬剤の使用量が多い
- コーヒー摂取率が低い
- 精神疾患がある