認知症にはさまざまな病型があります
日本において65歳以上の高齢者の16%が認知症であると推定されています。また、認知症の有病率は年齢とともに急速に増加し、80歳台後半では男性の35%、女性の44%が認知症を患っていることが明らかとなっています。
認知症にはさまざまな病型がありますが、Alzheimer型認知症が67.6%で最多、血管性認知症が19.5%、Lewy小体型認知症および認知症を伴ったParkinson病が4.3%です。日本において認知症は増加傾向であり、特にAlzheimer型認知症が増加しています。
認知症でみられる認知機能障害
全般性注意障害
全般性注意とは、周囲の刺激を受・選択し、それに対して一貫した行動をするための基盤となる機能です。全般性注意が低下すると一度に処理できる情報量が減るため、やや複雑なことについて理解したり、記憶したり、反応したりすることが困難になります。
遂行機能障害
遂行機能とは、計画を立てて物事を実行し、その結果をフィードバックしながら進めていく機能です。遂行機能はやや複雑な行為すべてに関連しており、仕事や家事などを段取りよく進められなくなることで気づかれます。
記憶障害
記憶とは、新しい経験が保存され、その経験が意識や行為のなかに再生される機能です。経験を記名しそれを一定期間把持(貯蔵)して、その後に再生(想起)する仮定を含みます。
出来事記憶
「今朝、家でみかんを食べた」「去年、友人と○○県の温泉に行った」というように、“いつ”“どこで”という内容を含む出来事の記憶です。この出来事記憶の障害を健忘といいます。健忘は多くのタイプの認知症において中核となる症状であり、特にAlzheimer型認知症では早期から出現することが多いです。
意味記憶
物や言葉の意味などの知識に相当します。例えば「オタマジャクシ」の名前、形態、成長するとカエルになるといったことがわかるのは、意味記憶が保たれているためです。この意味記憶が傷害されると、まずオタマジャクシという名前が想起できなくなり、やがてオタマジャクシと聞いても何のことかわからなくなり、さらに進行すると実物や写真を見てもそれが何かわからなくなります。
非陳述記憶
意味上に内容を想起できない記憶で、言語などを介してその内容を陳述できない記憶です。代表的なものとして手続き記憶があり、これは作業や技能の工程を身体を使って覚えた知識であり、例えば自転車の乗り方や泳ぎ方などが挙げられます。認知症患者でもこうした非陳述記憶は保たれる(認知症でも自転車に乗れるなど)ので、日常生活動作を保つうえで有用なことがあります。
失語
構音運動、聴覚などの基本的な機能が保たれ、言語レベルで障害されている状態を失語といいます。脳卒中(脳梗塞、脳出血など)や脳腫瘍などの脳の病気においてもしばしば認められます。
視空間認知障害
視力の低下がないにも関わらず、物品の認識や簡単な道具の操作や図形描写が拙劣になる、手指の形を模倣できない、よく知っているはずの道で迷う、自動車をバックで駐車できないなどといった症状が生じます。大脳後方の機能低下が主となるAlzheimer型認知症やLewy小体型認知症でよくみられます。
失行
慣習的動作や道具使用の障害で、運動や対象認知などの障害によって説明できないものを失行といいます。失行にはさまざまなタイプがあり、ジェスチャーや慣習的動作の障害である観念運動性失行、道具の使用の障害である観念性失行、洋服の着脱ができなくなる着衣失行などが挙げられます。こちらも脳卒中や脳腫瘍などの脳の病気においてもしばしば認められます。
社会的認知の障害
顔の表情などから情動を読み取ったり、状況を認識したりする能力の低下のことです。状況を認識できたとしても、それに応じた適切な行動のとれない適応行動障害、衝動や感情を抑えることができない脱抑制など、社会的に適切でない言動がみられます。他の脳の病気や、薬物・アルコールの影響下でもみられることがあります。
認知症の診断と鑑別
認知症の診断には病歴の聴取と神経学的診察が重要です。認知症の有無、症状、重症度を評価します。診断のためには診察に加えて、認知機能検査(ミニメンタルステート検査: MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケール: HDS-Rなど)、画像検査としてMRI、血液検査などを行います。
認知機能検査
画像検査 MRI検査
まず治療可能な認知症(慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍など)を除外します。そして海馬周辺を含む脳萎縮の程度を評価します。
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●海馬の萎縮を呈するMRI画像
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●VSRAD画像
血液検査
内科的疾患による認知症や認知機能低下を鑑別するため、血液検査を行うことが推奨されます。血算、血液生化学、甲状腺ホルモン、電解質、空腹時血糖、ビタミンB12、葉酸の測定が推奨されます。
治療可能な認知症
慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍などにより認知機能低下をきたしている場合にはその原疾患を手術など治療する、またホルモンや電解質やビタミンの異常で認知機能低下をきたしている場合にはそれらを補正・補充するなど、適切に治療することで認知機能の改善が期待できる場合があります。そのため、認知症を疑った場合には、まずこうした“治療可能な認知症“を見逃さないことが重要です。そのためMRIや血液検査が必要です。
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●慢性硬膜下血腫のMRI画像
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●正常圧水頭症のMRI画像
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●正常圧水頭症のMRI画像
軽度認知障害について
軽度認知障害とは、認知症を発症する前段階の状態のことを指します。65歳以上の高齢者の15〜25%が軽度認知障害の状態にあると推定されています。そして軽度認知障害のうち毎年5〜15%が認知症へと進行します。軽度認知障害は、早期発見・治療によって認知症への進行を予防できることがわかっています。進行した認知症は改善することはできないため、この軽度認知障害の段階で発見・診断し適切な治療や生活指導を行うことが認知症予防の点において極めて重要です。
軽度認知障害を疑った場合の検査: 認知機能検査
軽度認知障害を疑った場合、Mini Mental State Examination (MMSE)や、Montreal Cognitive Assessment-Japanese vertion (MoCA-J)といった認知機能検査を行います。
軽度認知障害を疑った場合の検査: MRI検査
画像検査を行い、脳の形態的な萎縮がないかを確認します。
軽度認知障害から認知症への進行予防
軽度認知障害の状態からさらに認知症へと進行してしまうことを防ぐには、高血圧・糖尿病・脂質異常症(高コレステロール血症)などを適切に治療し、適度な運動を継続するといった生活習慣指導が推奨されます。
血管性認知症だけでなくAlzheimer型認知症においても、高血圧・糖尿病・脂質異常症(高コレステロール血症)および脳血管障害の既往が、軽度認知機能障害から認知症への進行を促進する危険因子であることが明らかになっています。
一方で、軽度認知障害の段階で早期から認知症治療薬を使用することで認知症への進行を予防できるという根拠は示されていません。
認知症の主な種類
認知症の約60%がアルツハイマー型認知症で、約20%は脳血管型認知症です。
その他、頭部打撲後の慢性硬膜下血腫や、頭の髄液の循環が悪くなった事により起こる正常圧水頭症というものがあります。
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 脳血管型認知症
- 慢性硬膜下血腫
- 正常圧水頭症
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症の原因については、完全に解明されておらず、いくつかの要因が関連していると考えられています。
遺伝的な要因や、アミロイドβプロテインの蓄積などがあります。
アミロイドβプロテインの蓄積の場合は、アミロイドβプロテインと呼ばれる異常なタンパク質が蓄積しされることでアミロイドプラークを形成されます。それが神経細胞の死を引き起こし認知機能の障害につながります。
アルツハイマー型認知症の治療
アルツハイマー型認知症は、数年の経過を辿り徐々に病状が進行する病気ですが、早期発見により内服治療による進行抑制が可能です。
当院で処方する治療薬は下記になりますが、それぞれに特徴があり、症状に合わせて使い分けます。
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●ドネペジル(アリセプト)
脳内のアセチルコリンという神経伝達物質の量を増やすことによって認知機能の改善を試みます。
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●ガランタミン(レミニール)
記憶障害や、時間や場所の認識の問題である見当識障害などの症状進行を遅らせます。
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●リバスチグミン(リバスタッチ)
貼り薬です。服薬困難な人に対して有用なタイプです。
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●メマンチン(メマリー)
血中半減期が長いため、1日1回の経口投与でよいことが特長です。
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●レカネマブ(レケンビ)
対症療法ではなく、病気の原因物質の除去を目的とした世界で初めての治療薬です。
当院ではMRI検査や認知機能検査を行い、投与の適応があると判断した場合は、投与可能な連携医療機関へ紹介させていただきます。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型や血管性認知症に続く最も一般的な認知症の一つで、厚生労働省関連組織による疫学調査によれば、全ての認知症のうち約4.3%がレビー小体型認知症であると報告されています。
主に65歳以上の高齢者に見られますが、30〜50歳代でも発症するケースがあり、男性に多い傾向です。
主な原因としては、脳の神経細胞におけるαシヌクレインというタンパク質を核としたレビー小体という物質が、大脳皮質に蓄積し神経細胞が喪失され、認知症症状が発現するとされています。しかしながら、レビー小体が脳内に出現する原因は明確にはなっておらず、現時点では脳の年齢的な変化と関連付けられています。
通常、認知症の場合、記憶力や理解力などの認知機能が徐々に低下していきますが、レビー小体型認知症は認知機能が時に波のように変動する傾向で、初期段階では、認知機能がしっかりしていることも多く、認知機能の低下が目立たない場合もあります。
レビー小体型認知症の治療
根本的に治す治療法は、現時点では確立されておらず、症状に合わせた対症療法が中心となります。
アルツハイマー型認知症と同様に薬物療法と非薬物療法を並行して行うことが原則となります。
当院で処方する主な治療薬は下記になります。
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●ドネペジル(アリセプト)
脳内のアセチルコリンという神経伝達物質の量を増やすことによって認知機能の改善を試みます。
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●ガランタミン(レミニール)
記憶障害や、時間や場所の認識の問題である見当識障害などの症状進行を遅らせます。
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●リバスチグミン(リバスタッチ)
貼り薬です。服薬困難な人に対して有用なタイプです。