症状としては軽いものから極めて重いものまでさまざまです
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)に記載されている「片頭痛」「緊張型頭痛」「三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)」以外の一次性頭痛には以下のものがあります。
“一次性頭痛”ですので、どの頭痛もMRIなどの画像検査で何も異常がないことが確認されていることが前提です。すなわち生命にかかわる危険な頭痛ではありません。しかし、症状としては軽いものから極めて重いものまでさまざまです。
- 一次性咳嗽性頭痛咳またはいきみによって生じる頭痛
- 一次性運動時頭痛激しい運動時や運動後に生じる頭痛
- 性行為にともなう一次性頭痛性行為によって生じ、性的興奮が高まるにつれて増強する頭痛
- 一次性雷鳴頭痛くも膜下出血の時のような、突然生じる非常に激しい頭痛
- 寒冷刺激による頭痛アイスクリーム頭痛ともいわれる、冷たい刺激に頭部がさらされたときに生じる頭痛
- 頭蓋外からの圧力による頭痛きついヘッドバンドやゴーグルなどによる東部への圧迫によって生じる頭痛(以前はポニーテール頭痛ともいわれた)
- 一次性穿刺様頭痛アイスピック頭痛ともいわれる、刺されるような頭痛
- 貨幣状頭痛硬貨のような頭皮の狭い範囲に生じる頭痛
- 睡眠時頭痛睡眠時にのみ繰り返し起こる頭痛
- 新規発症持続性連日性頭痛ある時から突然起こり、その後絶え間なく持続する原因不明の頭痛
一次性咳嗽性頭痛
一次性咳嗽性頭痛の症状
長時間の身体的な運動ではなく(←「一次性運動時頭痛」と異なる)、咳または他のいきみによって誘発される頭痛です。
頭痛は咳嗽または他の刺激の後に発現し、ほぼ直後にピークに達し、数秒~数分の間で消退します。(ただし軽度~中等度の頭痛が2時間みられる場合があります)
頭痛は通常両側性で後頭部の痛みであり、主に40歳以上の年齢に多くみられます。
咳がひどいほど頭痛も重度である傾向があります。
一次性咳嗽性頭痛の診断
症候群としての咳嗽性頭痛は約40%が症候性で、キアリ奇形I型が大半です。咳やいきみでは増悪する頭痛を認めた場合にはMRIなどの画像検査を行いキアリ奇形I型などの疾患を除外する必要があります。特に小児にこうした頭痛を認めた場合には必ず検査を行い、他に原因となる疾患がないことを証明しなければなりません。
診断基準
- A B~Dを満たす頭痛が2回以上ある
- B 咳、いきみ、またはその他のヴァルサルヴァ手技(あるいはこれらの組み合わせ)に伴ってのみ誘発されて起こる
- C 突発性に起こる
- D 1秒~2時間持続する
- E ほかに最適なICHD-3の診断がない
一次性咳嗽性頭痛の治療
インドメタシン50~200mg/日の投与が有効です。
一次性運動時頭痛
一次性運動時頭痛の病態
一次性運動時頭痛がどのようにして発生するのかは不明ですが、身体的な運動によって血管(静脈または動脈)が拡張することによって痛みが生じるとする意見が多いです。
最近の報告では一次性運動時頭痛の患者さんの多くで内頚静脈弁の不全がみられる(70%)ことから、頚静脈血流の逆流による頭蓋内静脈のうっ血が関係していると推測されています。
一次性運動時頭痛の診断
症候性の(他に疾患がありその一症状として運動時頭痛を認める)ケースがあり、一次性運動時頭痛を疑う場合には必ずMRIなどの画像検査を行い、くも膜下出血・動脈解離・可逆性脳血管攣縮症候群RCVSを除外する必要があります。
診断基準
- A BおよびCを満たす頭痛が2回以上ある
- B 激しい身体的な運動中または運動後にのみ誘発されて起こる
- C 48時間未満の持続
- D ほかに最適なICHD-3の診断がない
一次性運動時頭痛の治療
インドメタシン50~200mg/日の投与が有効です。
性行為に伴う一次性頭痛
性行為に伴う一次性頭痛の症状
性行為または自慰行為によって誘発される頭痛で、性的興奮が高まるにつれて両側性の鈍痛として始まり、オルガズム(絶頂)時に突然増強します。
男性のほうが女性よりも多くみられ(2:1または3:1)、性行為の種類とは関係なく起こり、ほとんどのケースで自律神経症状を伴わず、2/3では両側性の痛み・1/3では片側性の痛みとされます。頭痛発作の頻度は性行為の頻度と関連します。
性行為に伴う一次性頭痛の病態
緊張型頭痛や頸部を中心とした筋収縮や、急激な血圧上昇・心拍数の増加に伴う頭蓋内圧亢進が関与していると考えられています。性行為中の血圧は著しく上昇しており、代謝性の脳血管自動調節脳の障害が存在するものと推測されています。
性行為に伴う一次性頭痛の診断
性行為中に頭痛が生じることは実はめずらしくありません。片頭痛の方でもそうした経験のある方はおられるのではないでしょうか。しかしここで重要なのは「性行為に伴う一次性頭痛」の場合はあくまで性行為中にしか生じないということです。性行為中にも頭痛が生じることがあるがその他の日常でも同様の頭痛が生じる場合にはこちらの診断名にはなりません。
注意点として、性行為に伴う頭痛を初めて経験したときには、MRIなどの画像検査を行いくも膜下出血・頭蓋内外の動脈解離・可逆性脳血管攣縮症候群RCVSを必ず除外しなければなりません。また性行為後に起こる体位性頭痛は脳脊髄液の漏出によると考えられているので注意が必要です(入院治療が必要となる場合があります)。
診断基準
- A B~Dを満たす頭部または頸部(あるいはその両方)の痛みが2回以上ある
- B 性行為中にのみ誘発されて起こる
- C 以下の1項目以上を認める
- ① 性的興奮の増強に伴い、痛みの強さが増大
- ② オルガズム直前か、あるいはオルガズムに伴い突発性で爆発性の強い痛み
- D 重度の痛みが1分~24時間持続、または軽度の痛みが72時間まで持続(あるいはその両方)
- E ほかに最適なICHD-3の診断がない
性行為に伴う一次性頭痛の治療
有効性についてエビデンスのある薬物治療はありませんが、インドメタシン50~100mg/日の投与が有効と考えられており、性行為の1~2時間前に服用するのが有効である場合があるという報告があります。
トリプタン、エルゴタミン、ベンゾジアゼピン系薬剤による治療も報告されています。
頭痛の持続時間が長いケースではプロプラノロール、メトプロロール、ジルチアゼムの予防的投与が試みられています。
性行為に伴う一次性頭痛の予後
一般的に予後は良好で、発作的に起こり寛解していくケースが多いです。しかし25%では慢性の経過を示す例があります。
一次性雷鳴頭痛
一次雷鳴頭痛の診断と注意点
「雷鳴頭痛」とはその名の通り”雷が落ちたような”突然生じる非常に激しい頭痛を指します。
通常、重篤な血管性頭蓋内疾患、特にくも膜下出血に伴って起こります。そのため雷鳴頭痛が生じた場合には直ちに専門(脳神経外科)の医療機関を受診し、CTやMRIなどの画像検査を含む各種検査を行い、くも膜下出血・脳出血・脳静脈血栓症・可逆性脳血管攣縮症候群RCVS・未破裂脳動脈瘤・動脈解離・下垂体卒中を必ず除外しなければなりません。他には髄膜炎・第三脳室コロイド嚢胞・特発性低頭蓋内圧症・急性副鼻腔炎などでも雷鳴頭痛を認めることがあります。
雷鳴頭痛をきたす疾患には生命にかかわるきわめて重篤な疾患が多く存在するため、これらのすべてが検査によって完全に否定された場合にのみ「一次性雷鳴頭痛」と診断されますが、一度検査して明らかな異常がなかったからといってすぐに「一次性雷鳴頭痛でしょう」とは診断されません。
こうした場合には症状の経過を慎重に観察しながら、画像検査(MRIやカテーテルを用いた脳血管造影検査など)を繰り返し行う必要があります。
診断基準
- A BおよびCを満たす重度の頭痛
- B 突然発症で、1分未満で痛みの強さがピークに達する
- C 5分以上持続する
- D ほかに最適なICHD-3の診断がない
寒冷刺激による頭痛
寒冷刺激による頭痛の診断
非常に寒い天候のとき、冷水へ飛び込むとき、あるいは寒冷療法を受けるときなどの頭部の外的寒冷刺激により起こります。
通常前頭部中央に強い短時間の穿刺様の痛みが起こりますが、側頭部・前頭部・目の奥あたりのこともあります。 日常的に経験する「アイスクリームやかき氷を急いで食べたときに生じるキーンとした頭痛」がこの頭痛の一種です。
診断基準
- A BおよびCを満たす急性の頭痛が2回以上ある
- B 頭部への外因性の寒冷刺激が加わっている間だけに伴って誘発されて起こる
- C 寒冷刺激除去後5分以内に消失する
- D ほかに最適なICHD-3の診断がない
頭蓋外からの圧力による頭痛
頭蓋外からの圧力による頭痛の診断
頭皮に障害を起こさない程度の、きついヘッドバンドやヘルメットおよび水泳中のゴーグルの装着のような圧迫や牽引が頭蓋軟部組織の周囲に及ぶことによって生じる頭痛です。”ポニーテール頭痛”などとも呼ばれます。
診断基準
- A B~Dを満たす頭痛が2回以上ある
- B 前額部あるいは頭皮の頭蓋外からの圧迫により1時間以内に誘発されて起こる
- C 頭蓋外からの圧迫部位で痛みが最大
- D 頭蓋外からの圧迫が解除された後1時間以内に消失
- E ほかに最適なICHD-3の診断がない
一次性穿刺様頭痛
一次性穿刺様頭痛の症状および診断
穿刺様の痛みの80%は3秒以内であったとする研究がありますが、まれに10~120秒間持続することがあります。 一般的に発作頻度は少なく、1日に1回あるいは数回程度です。また痛みは70%のケースで三叉神経領域外に起こります。
穿刺様の痛みが常に1ヵ所に限定して起こる場合は、MRIなどの検査を行いその部位や支配領域の神経の異常がないかを評価しなければなりません。
診断基準
- A BおよびCを満たす自発的な単回または連続して起こる穿刺様の頭部の痛みがある
- B それぞれの穿刺様の痛みは数秒まで持続する
- C 穿刺様の痛みは不規則な頻度で、1日に1~多数回再発する
- D 頭部自律神経症状がない
- E ほかに最適なICHD-3の診断がない
貨幣状頭痛
貨幣状頭痛の症状および診断
頭皮の狭い領域に持続時間がさまざまな痛みが生じるもので、しばしば慢性化します。
痛みの部位は頭皮のどの場所においてもみられますが、通常は頭頂部です。
痛みの強度は一般的に軽度~中等度ですが重度である場合もあります。
痛みの持続時間はじつにさまざまで、これまでに報告されている例の75%は3ヵ月以上存在するとされていますが、数秒・数分・数時間あるいは数日であるとする報告もあります。
患部には感覚鈍麻、異常感覚、錯感覚、アロディニアまたは圧痛がさまざまな組み合わせでみられます。
診断基準
- A Bを満たす持続性あるいは間欠的な頭部の痛みがある
- B 頭皮の領域に限定して感じ、以下の4つの特徴をすべてもつ
- ① くっきりした輪郭
- ② 大きさと形は一定
- ③ 円形または楕円形
- ④ 直径は1~6cm
- C ほかに最適なICHD-3の診断がない
睡眠時頭痛
睡眠時頭痛の症状・病態
睡眠時頭痛は通常50歳以降(平均60歳前後)で発症しますが、若年者で起こることもあります。
痛みは通常軽度~中等度ですが、重度の患者も約1/5の例で報告されています。
2/3の例で痛みは両側性で、通常15~180分持続します。
最近の報告では睡眠時頭痛患者において視床下部灰白質の体積減少が報告されています。
睡眠時にのみ生じるということで、夜間・睡眠中に起こりやすい「群発頭痛」と痛みのタイミングが類似していますが、落ち着きのなさを認めないことが特徴です。(「群発頭痛」ではあまりの激痛のため落ち着きがなくウロウロします)
ただし痛みで覚醒してしまうと再度入眠できないために読書をしたりテレビを観たり飲食をしたりといった行動がみられることがあります。
診断基準
- A B~Eを満たす繰り返す頭痛発作がある
- B 睡眠中にのみ起こり、覚醒の原因となる
- C 月に10日以上、3か月を超えて起こる
- D 覚醒後15分~4時間まで持続する
- E 頭部自律神経症状や落ち着きのなさを認めない
- F ほかに最適なICHD-3の診断がない
睡眠時頭痛の治療
リチウム、カフェイン、メラトニン、インドメタシンの有効例が報告されていますが、エビデンスのある治療法はありません。
カフェインは急性期治療薬としてだけでなく予防薬としても用いられます。
痛みで目が覚めた時やあらかじめ就寝時に1杯のコーヒーを飲むことによっても効果が得られる場合があります。
発作予防薬としてリチウムが有効なことも多く、トピラマート・インドメタシン・メラトニン・アミトリプチリン・ラメルテオン・ラモトリギンなどを用いた治療の報告があります。
新規発症持続性連日性頭痛
新規発症持続性連日性頭痛の疫学
小児思春期における新規発症持続性連日性頭痛の有病率は成人よりも高いことが示唆されています。
発症年齢は8~78歳と幅広く、平均発症年齢は成人では女性32.4歳、男性35.8歳、小児では14.2歳と報告されています。
新規発症持続性連日性頭痛の症状
明瞭に思い出すことができる頭痛発現に始まり、連日性(毎日)にみられる持続性の頭痛です。
痛みに特徴的な性状はなく、片頭痛のような痛みであったり緊張型頭痛のような痛みであったりします。
新規発症持続性連日性頭痛の診断
典型的にはこれまでに頭痛持ちではなかった方に起こる新規の頭痛で、発症時からその後すぐに寛解することなく毎日起こる点が特徴です。
ただし以前から片頭痛や緊張型頭痛を有する場合でも除外はされません。患者さんは常に頭痛発症時について想起し、正確に述べることができます。
もしできない場合には他の頭痛診断がなされるべきです。
またこの頭痛は「片頭痛」または「緊張型頭痛」を示唆する特徴を有していることがあり、「慢性片頭痛」または「慢性緊張型頭痛」」(あるいはその両方)の診断を満たしていても、「新規発症持続性連日性頭痛」の診断基準に合致する場合には原則としてこの頭痛として診断します。
診断基準
- A BおよびCを満たす持続性頭痛がある
- B 明確な発症で明瞭に想起され、24時間以内に持続性かつ非寛解性の痛みとなる
- C 3か月を超えて持続する
- D ほかに最適なICHD-3の診断がない
診断における注意点
“最初のうちは週に数回だった頭痛が、最近は毎日起こるようになった”場合はこの頭痛ではありません。
この頭痛と診断するには、いつどんな時にはじめて起こったかを詳細に説明でき、かつその後24時間以内に持続性となっている必要があります。
頭痛の強さに強弱の変化はあっても、消えることはありません。(=持続性)
新規発症持続性連日性頭痛の予後
治療なしで数ヵ月以内に消失する自然寛解性のものと、積極的治療に抵抗性を示す難治性のものとがあります。
新規発症持続性連日性頭痛は最も薬治療抵抗性の一次性頭痛として知られています。
罹患期間が20年を超える場合もあり、新規発症持続性連日性頭痛患者においては薬剤の使用過多になりがちです。
そうした場合、使用過多の薬剤からの離脱によって新規発症持続性連日性頭痛の頭痛が改善することはありませんが、それでも鎮痛薬の使用過多は中止すべきです。
ガバペンチン・トピラマート・アミトリプチリンが有効であったという報告があります。
現時点で明確に支持されている治療法はなく、治療に難渋するケースが多いです。薬物療法に抵抗性を示す新規発症持続性連日性頭痛患者さんにおいては、個々のケースごとに有効な治療を探っていく粘り強い対応が必要です。