糖尿病とは
糖尿病とは血液中に含まれるブドウ糖(血糖)が正常量を超えて増えてしまう病気で、その原因・状態によりいくつかの病型に分類されます。

糖尿病の分類
- ① 1型糖尿病
- ② 2型糖尿病
- ③ その他の特定の機序・疾患によるもの
- ④ 妊娠糖尿病

よく高血圧や脂質異常症などとともに”生活習慣病”として問題となることが多いのが②2型糖尿病で、糖尿病の病型のなかで最も多いものです。糖尿病では初期にはほとんど無症状であることが多い(だからこそ糖尿病になってしまう・・・)ですが、長期にわたってさまざまな問題がおこってきます。低血糖発作や異常な高血糖により重篤な状態となるケースもありますが、生活習慣病としての糖尿病の観点から重要なのは、血管障害です。つまり糖尿病そのものによる症状だけでなく、糖尿病である(血糖異常が続く)ことによって心筋梗塞や脳卒中といった重大な心臓・脳血管病の発症リスクが高まることが問題なのです。
糖尿病診療の流れ
現病歴
高血糖による症状として喉が渇く、多飲、トイレが近い、体重が減るといった症状が出ることがあります。また糖尿病合併症による症状として視力低下、足のしびれや痛み、発汗異常、便秘・下痢、足の潰瘍、勃起障害・月経異常などがみられることがあります。最近こうした症状が続くという場合には、糖尿病を疑う必要があります。
既往歴
膵臓・肝臓疾患や内分泌疾患、胃切除などによって糖の代謝に異常をきたすことがありますので、こうした病歴がないかを確認します。
肥満、高血圧、脂質異常症、脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)、虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症など)の有無や経過を確認します。
過去および現在の肥満・やせの有無や、女性であれば妊娠・出産歴や経過に問題がなかったか(自然流産や妊娠糖尿病の有無、出生児の状態等)を確認します。
家族歴
血縁者に肥満や糖尿病の方がいるかを確認します。
身体診察
以下のような症状がないかを確認します。
皮膚
乾燥、緊張の低下、変色、水疱、白癬・カンジダなどの皮膚感染症、爪の異常、湿疹などがないか。
眼
糖尿病において眼の状態はきわめて重要な所見です。糖尿病が疑われる場合や診断された場合には必ず眼科を受診する必要があります。
視力検査、眼圧検査、眼底検査、白内障・緑内障の有無、眼球運動異常の有無
口腔
口腔内の乾燥、虫歯・歯周病、口腔内感染症がないか。
下肢
足の動脈の拍動微弱・消失、浮腫(むくみ)、潰瘍・壊疽・胼胝などの皮膚トラブルがないか。
神経系
感覚低下、起立性低血圧、発汗異常などがないか
検査
糖尿病かどうかの診断は、血液検査によって行われます。また糖尿病と診断された後の治療効果の判定も血液検査で行います。糖尿病に関する血液検査項目はいくつかありますが、クリニックや診療所などの一次医療機関で日常的に検査されるのは「血糖値」「Hb(ヘモグロビン)A1c」で、これらの項目で診断・評価を行います。

血糖値
血液中に含まれるブドウ糖の数値です。食事摂取の影響を受けやすく、食後に上昇します。空腹時血糖が126mg/dL以上、随時血糖が200mg/dL以上の場合には糖尿病の診断基準を満たします(”糖尿病型”といいます)。
Hb(ヘモグロビン)A1c
採血時から遡って過去1~2カ月間の平均血糖値を反映するもので、糖尿病治療がうまくいっているかの指標となるものです。健常者では4.6~6.2%が基準値であり、6.5%以上の場合は糖尿病の診断基準を満たします(”糖尿病型”といいます)。一般的には数値が大きいほど血糖コントロールが悪いと考えられ、糖尿病治療においてはこのHbA1cの数値を下げることを目標とされます。血糖値は食事の影響を大きく受けるので変動が大きいですが、HbA1cは数日間で大きく変動するものではありません。例えば糖尿病の方がある日かかりつけ医のもとで採血をしたとして、直前に絶食をすれば血糖値は低く出ますが、普段から間食や暴食などをしていればHbA1cはしっかりと高い数値が出ますので、そのことが主治医の先生にバレてしまいます。このように、HbA1cは診察時だけではない普段の血糖状態をしっかりと反映するものなのです。
糖尿病の診断
糖尿病型の基準
血液検査で血糖値・HbA1cを同時に測定し、両方が糖尿病型である場合には、初回検査のみで糖尿病と診断されます。
血糖値のみが糖尿病型で、①口渇・多飲・体重減少などの典型的な糖尿病症状がある、または②確実な糖尿病網膜症のいずれかが認められる場合には、初回検査のみで糖尿病と診断されます。
どちらか一方のみが糖尿病型であった場合には、別日に再度検査を行い判定します。

- 空腹時血糖 ≧ 126mg/dL、随時血糖 ≧ 200mg/dL、OGTT 2時間 ≧ 1200mg/dLのいずれか。
- HbA1c ≧ 6.5%
糖尿病の治療
糖尿病治療において最も重要なのは当然血糖コントロールですが、血圧・脂質・体重についてもしっかりと管理する必要があります。
血糖コントロール
前述の通り、普段の血糖コントロールにおいてはHbA1cが重視され、主な治療判定はこれによって行われます。血管病の発症予防や進行抑制のためには、低血糖発作を起こさずにHbA1c 7.0%未満を目標として治療します。ただし65歳以上の高齢者については認知機能や低血糖リスクなどを考慮して目標HbA1c値を設定します。また長期にわたって血糖コントロールが悪かった場合に血糖値を急激に低下させると、糖尿病網膜症や神経障害などの合併症が悪化する場合があるので注意が必要です。高齢者、肝・腎機能が低下している方、重度の虚血性心疾患がある方では、低血糖発作のリスクが高く、薬剤選択に注意する必要があります。

目標 | 血糖正常化を 目指す際の目標 |
合併症予防 のための目標 |
治療強化が 困難な際の目標 |
---|---|---|---|
HbA1c | 6.0未満 | 7.0未満 | 8.0未満 |
※いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠されている方は該当しません。
合併症予防のための血糖値の目標においては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dLをおおよその目安とします。
また、高齢者糖尿病における血糖コントロール目標は次のようになります。
カテゴリー分類 | カテゴリーI | カテゴリーII | カテゴリーIII |
---|---|---|---|
患者の特徴・健康状態 | 認知機能正常 ADL自立 |
軽度認知障害~軽度認知症 手段的ADL低下・基本的ADL自立 |
中等度以上の認知症 基本的ADL低下 多くの併存疾患や機能障害 |
重症低血糖が危惧される薬剤なし | 7.0%未満 | 7.0%未満 | 8.0%未満 |
重症低血糖が危惧される薬剤あり | 65~74歳:7.5%未満 75歳~:8.0%未満 |
8.0%未満 (下限7.0%) |
8.5%未満 (下限7.5%) |
血圧コントロール
- 糖尿病のある高血圧の方においては、130/80mmHg未満を目標に血圧コントロールを行います。
脂質コントロール
- LDLコレステロール 120mg/dL未満
※冠動脈疾患のある方では100mg/dL未満、冠動脈疾患の再発リスクが高いと考えられる方では70mg/dL未満) - HDLコレステロール 40mg/dL以上
- 中性脂肪 150mg/dL未満
体重
- BMI(body mass index)※が22〜25となる体重を目標とします。
※BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)2 - 身長150cmの方では49〜56kg程度
- 身長160cmの方では56〜64kg程度
- 身長170cmの方では63〜72kg程度
治療方針の立て方
インスリン非依存状態(インスリン注射を必須としない状態)の2型糖尿病においては、薬物療法の他に食事療法・運動療法がとても重要であり、お薬の投与だけでなく日常生活における食事や運動に気を配らなければなりません。
初診時のHbA1cが9.0%未満のときは、まず食事療法と運動療法を強化します。これらを2~3か月継続しても目標の血糖コントロールを達成できない場合には薬物療法を開始します。血糖コントロールの目標は前述の通りHbA1c 7.0%未満です。適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合には、さらにHbA1c 6.0%未満を目標とします。

一方、初診時のHbA1cが9.0%以上のときは、食事療法・運動療法に加えて薬物療法を検討します。お薬は少量から開始し、血糖コントロールの状態をみながら徐々に増量するのが一般的です。糖尿病のお薬が開始されてしまうと一生やめられないと思われる方もおられるかもしれませんが、体重の減少や生活習慣の改善によって血糖コントロールが良好になれば、お薬の減量・中止が可能となる場合があります。つまり、糖尿病の治療においては、漫然とお薬の投与を続けるのではなく、患者さん本人の食事・運動に対する努力が欠かせません。
食事療法
一般的な食事療法の初期設定として、適正エネルギー量の40~60%を炭水化物、タンパク質は20%まで、残りを脂質とし、食物繊維が豊富に含まれる食材を選択します。ここでの適正エネルギー量は年齢・肥満度・普段の身体活動量などによって算出されます。

エネルギー係数の目安
※適正エネルギー量(kcal)= 目標体重(kg)× エネルギー係数(kcal/kg)
- 軽い労作(大部分が座った状態での活動): 25~30kcal/kg目標体重
- 普通の労作(座っての作業が中心だが、通勤・家事・軽い運動を含む): 30~35kcal/kg目標体重
- 重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある): 35~ kcal/kg目標体重
アルコール摂取量は1日25gまでとし、肝機能障害や合併症のある方は禁酒する必要があります。高血圧のある方では、食塩摂取量を1日6g未満とすることが推奨されています。さらに糖尿病性腎症の進行している方ではタンパク質の制限も必要となるため、それぞれの病態に応じ専門医へ相談することが望ましいです。
運動療法
血糖コントロールのための運動療法を行うにあたっては、まず医師による身体状態の評価が必要になりますので、いきなり自己判断で行わないようにしましょう。
運動の種類として大きく有酸素運動とレジスタンス運動の2つに分類されます。

有酸素運動
歩行・ジョギング・水泳などの酸素供給に見合った強度の運動で、心肺機能の向上が期待できます。
レジスタンス運動
腹筋・腕立て伏せ・スクワットやジムでのマシントレーニングのような、おもりや抵抗負荷に対して動作を行う運動で、筋力の増強が期待できます。

運動療法は基本的に継続することが重要です
運動療法においては、上記2種類とも血糖コントロールに有効であり、組み合わせて行うことでさらに効果が高くなります。
運動療法は基本的に継続することが重要で、日常生活のなかで運動できるタイミングで適宜行って構いませんが、血糖コントロールが不安定な場合には強度・時間を控えめにするようにしましょう。また以下の場合には運動療法を禁止または制限する必要がありますので、専門医の指示に従いましょう。
- 糖尿病のコントロールが極端に悪い(空腹時血糖値250mgdL以上、尿ケトン隊が中等度以上陽性)
- 増殖前網膜症以上
- 腎不全の状態
- 虚血性心疾患や心肺機能障害がある
- 骨・関節疾患がある
- 急性感染症
- 糖尿病壊疽
- 高度の糖尿病性自律神経障害
糖尿病の薬物治療
糖尿病治療薬は作用機序の点からインスリン分泌非促進系・インスリン分泌促進系・インスリン製剤の3つに分けられます。そして投与方法の点から経口薬・注射薬の2種類に分けられます。
3か月間投与しても目標の血糖コントロール値に達しない場合には、他の薬剤との併用を含め他の治療法を検討する必要があります。
妊娠中・妊娠する可能性が高い・授乳中の場合には、原則的に経口薬は使用しません。

インスリン分泌非促進系
α-グルコシダーゼ阻害薬
- アカルボース(主な販売名アカルボース錠50mg・100mg)
- ボグリボース(主な販売名ベイスン錠0.2・0.3)
- ミグリトール(主な販売名セイブル錠25mg・50mg・75mg)
- 消化管内でα-グルコシダーゼという酵素の働きを阻害することで単糖類への分解を阻害して糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制します。
- 必ず食事の直前に服用します。食後では効果が大きく減少します。
- 副作用として腹部膨満感、下痢、おならなどが認められることがあります。
- 高齢者や開腹手術歴のある方では腸閉塞を起こす場合があり、注意が必要です。
SGLT2阻害薬
- イプラグリフロジン(販売名スーグラ錠25mg・50mg)
- ダパグリフロジン(販売名フォシーガ錠5mg・10mg)
- ルセオグリフロジン(販売名ルセフィ錠2.5mg・5mg)
- トホグリフロジン(販売名デベルザ錠20mg)
- カナグリフロジン(販売名カナグル錠100mg)
- エンパグリフロジン(販売名ジャディアンス錠10mg・25mg)
- 腎臓の近位尿細管という部位でのブドウ糖の再吸収(尿に出さずに血液中に戻すこと)を抑制することで、尿糖排泄を促進して血糖値を下げます。
- そのためSGLT2阻害薬投与中は血糖コントロールが良好であっても尿糖が陽性になります。
- 単独使用では低血糖を起こす可能性が低いです。
- 体重低下が期待できます。
- 腎機能が低下している方では効果が期待できず、腎不全・透析中の方には使用を控えます。
- 尿糖が生じますので、尿路感染症・性器感染症(特に女性)に注意が必要です。
チアゾリジン薬
- ピオグリタゾン(主な販売名アクトス錠15・30)
- インスリン抵抗性を改善(血糖を下げるインスリンというホルモンの効きを良くする)することで血糖を下げます。
- 体重が増加しやすいため、食事療法をきちんと行うことが重要です。
- 体内・組織に水分が貯留しやすく、副作用として浮腫があげられます。そのため心不全の方には使用を控えます。
- 女性での使用で骨折が生じる頻度が上昇することが報告されています。
ビグアナイド薬
- メトホルミン(主な販売名メトグルコ錠250mg・500mg)
- 肝臓での糖新生(糖質以外の物質からグルコースを生成すること)を抑える作用が主で、その他に消化管からの糖の吸収を抑える作用、末梢組織でのインスリンの効きを改善する作用により、血糖値を下げます。
- 体重が増加しにくいため、肥満の方では第一選択となりますが、肥満でない方にも有効です。
- 単独使用で低血糖を起こす可能性はきわめて低いです。
- 稀ですが重大な副作用として、乳酸アシドーシスという重篤な状態を引き起こす場合があります。肝・腎・心肺機能低下、脱水、大量飲酒者、手術前後、インスリンの絶対適応のある方、栄養不良、下垂体・副腎機能不全のあるケースでは使用を控えます。
血糖依存性インスリン分泌促進系
イメグリミン
- イメグリミン(販売名ツイミーグ錠500mg)
- ミトコンドリアへの作用により、血糖値上昇に伴うインスリン分泌の促進と組織でのインスリン抵抗性の改善をもたらし、血糖値を下げます。
- ビグアナイド薬と作用の一部が共通している可能性があり、両者の併用によって消化器症状が多くみられたことから、ビグアナイド薬との併用には注意が必要です。
- インスリン・SU薬・速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)との併用では低血糖のリスクが増加する可能性があります。
- 腎機能がeGFR 45mL/分/1.73m2未満にまで低下した腎機能低下(透析を含む)の方への投与は推奨されません。
DPP-4阻害薬
●毎日投与
- シタグリプチン(主な販売名ジャヌビア錠、グラクティブ錠12.5mg・25mg・50mg・100mg)
- ビルダクリプチン(主な販売名エクア錠50mg)
- アログリプチン(主な販売名ネシーナ錠6.25mg・12.5mg・25mg)
- リナグリプチン(主な販売名トラゼンタ錠5mg)
- テネリグリプチン(主な販売名テネリア錠20mg・40mg)
- アナグリプチン(主な販売名スイニー錠100mg)
- サキサグリプチン(主な販売名オングリザ錠2.5mg・5mg)
●週1回投与
- トレラグリプチン(主な販売名ザファテック錠25mg・50mg・100mg)
- オマリグリプチン(主な販売名マリゼブ錠12.5mg・25mg)
- DPP-4を阻害することで活性型GLP-1・活性型GIPの濃度を高め、血糖が高い時にインスリン分泌を促進して血糖を低下させます。
- 体重が増加しにくいです。
- 食事摂取の影響を受けないため、食前・食後どちらでも投与可能です。
- 単独使用では低血糖の可能性少ないですが、スルホニルウレア(SU)薬との併用で重度の低血糖による意識障害を起こす例が報告されています。
- 消化管蠕動運動の低下による腸閉塞を起こした例が報告されていますので、吐き気・腹部膨満感・腹痛などの症状がある場合には使用を中止し主治医へ報告しましょう。
- 稀ですが水疱性類天疱瘡という自己免疫性水疱症を発症することがあり、疑われる場合には直ちに使用と中止し皮膚科を受診しましょう。
GLP-1受容体作動薬 と GIP/GLP-1受容体作動薬
●注射薬
- リラグルチド(販売名ビクトーザ皮下注18mg)
- デュラグルチド(販売名トルリシティ皮下注0.75mgアテオス)
- セマグルチド(販売名オゼンピック皮下注2mg)
●経口薬
- セマグルチド(販売名リベルサス錠3mg・7mg・14mg)
●GIP/CLP-1受容体作動薬
- チルゼパチド(販売名マンジャロ皮下注2.5mg・5mg・7.5mg・10mg・12.5mg・15mgアテオス)
- 膵臓β細胞膜にあるGLP-1 受容体に作用し、血糖上昇時にインスリンの分泌を促進し、血糖上昇を抑えます。
- 食欲を抑える作用があるため、体重低下が期待できます。
- 単独使用では低血糖の可能性は低いです。
- 副作用として胃腸障害(下痢・便秘・吐き気)が投与初期に認められます。そのため低用量から使用を開始し、徐々に増量して使用します。
- 急性膵炎の報告があり、膵炎の既往のある方では注意が必要です。
血糖非依存性インスリン分泌促進系
スルホニルウレア(SU)薬
- グリベンクラミド(主な販売名オイグルコン錠1.25mg・2.5mg)
- グリクラジド(主な販売名グリミクロンHA錠20mg/錠40mg)
- グリメピリド(主な販売名アマリール0.5mg・1mg・3mg錠)
- 膵臓β細胞膜にあるSU受容体に作用してインスリン分泌を促進し、投与後短時間で血糖値を低下させます。
- 高度の肥満があるなどインスリン抵抗性の高い方では効果が期待できません。
- 低血糖を起こすことがあり、注意が必要です。
- 体重増加を起こしやすいため注意が必要です。
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
- ナテグリニド(主な販売名スターシス錠30mg・90mg、ファステック錠30・90)
- ミチグリニド(主な販売名グルファスト錠5mg・10mg)
- レパグリニド(主な販売名レパグリニド錠0.25mg・0.5mg)
- 膵臓β細胞膜にあるSU受容体に作用してインスリン分泌を促進し、投与後短時間で血糖値を低下させます。SU薬と比べて吸収と血液中からの消失が速いです。
- 食後高血糖の改善に有効です。
- 低血糖を起こすことがあり、注意が必要です。必ず食事の直前に投与するようにしましょう。
配合薬
メタクト配合錠LD/HD(販売名)
- ピオグリタゾン(チアゾリジン薬) + メトホルミン(ビグアナイド薬)
- 組織でのインスリン抵抗性を改善し、かつ肝臓での糖の生成を抑制することで血糖を低下させます。
ソニアス配合錠LD/HD(販売名)
- ピオグリタゾン(チアゾリジン薬) + グリメピリド(SU薬)
- 組織でのインスリン抵抗性を改善し、かつ膵臓でのインスリン分泌を促進することで血糖を低下させます。
リオベル配合錠LD/HD(販売名)
- アログリプチン(DPP-4阻害薬) + ピオグリタゾン(チアゾリジン薬)
- 血糖が高い時にインスリン分泌を促進させ、かつ組織でのインスリン抵抗性を改善することで血糖を低下させます。
グルベス配合錠/配合錠OD(販売名)
- ミチグリニド (速効型インスリン分泌促進薬)+ ボグリボース(α-グルコシダーゼ阻害薬)
- 膵臓でのインスリン分泌を促進し、かつ糖の吸収を遅らせることで血糖を低下させます。
エクメット配合錠LD/HD(販売名)
- ビルダグリプチン(DPP-4阻害薬) + メトホルミン(ビグアナイド薬)
- 血糖が高い時にインスリン分泌を促進させ、かつ肝臓での糖の生成を抑制することで血糖を低下させます。
イニシンク配合錠(販売名)
- アログリプチン(DPP-4阻害薬) + メトホルミン(ビグアナイド薬)
- 血糖が高い時にインスリン分泌を促進させ、かつ肝臓での糖の生成を抑制することで血糖を低下させます。
メトアナ配合錠LD/HD(販売名)
- アナグリプチン(DPP-4阻害薬) + メトホルミン(ビグアナイド薬)
- 血糖が高い時にインスリン分泌を促進させ、かつ肝臓での糖の生成を抑制することで血糖を低下させます。
カナリア配合錠(販売名)
- テネリグリプチン(DPP-4阻害薬) + カナグリフロジン(SGLT2阻害薬)
- 血糖が高い時にインスリン分泌を促進させ、かつ腎臓での糖の再吸収を抑制し尿へ排出することで血糖を低下させます。
スージャヌ配合錠(販売名)
- シタグリプチン(DPP-4阻害薬) + イプラグリフロジン(SGLT2阻害薬)
- 血糖が高い時にインスリン分泌を促進させ、かつ腎臓での糖の再吸収を抑制し尿へ排出することで血糖を低下させます。
トラディアンス配合錠AP/BP(販売名)
- エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬) + リナグリプチン(DPP-4阻害薬)
- 腎臓での糖の再吸収を抑制し尿へ排出させ、かつ血糖が高い時にインスリン分泌を促進することで血糖を低下させます。
糖尿病の合併症
糖尿病で生じる合併症には、高度のインスリン作用不足によって生じる急性合併症と、長年の高血糖状態によって生じる慢性合併症があります。これらはどちらも糖尿病患者の生命予後やQOLを悪化させるため、これら合併症の予防および進展抑制が糖尿病治療の目的となります。

急性合併症
糖尿病性ケトアシドーシス
主に1型糖尿病患者に発生する急性の代謝異常であり、インスリン不足により高血糖、ケトン体産生の増加、アシドーシスを引き起こします。感染症、インスリンの未投与、ストレスなどが誘因となることが多いです。
高浸透圧高血糖状態
これらは高度医療機関での入院治療が必要となる、重篤な状態です。生命に関わるケースもあります。クリニックや診療所などの外来で治療できるものではありませんので詳細は割愛します。糖尿病の方は、普段と異なる体調の異変に気づいたらすぐに主治医を受診・相談することが大切です。
感染症
糖尿病患者は感染症にかかりやすく、また重篤しやすいため注意が必要です。感染症予防に努めるとともに、血糖コントロールをきちんと行いましょう。
慢性合併症
糖尿病網膜症
血糖コントロールが悪いと眼に障害が現れ、進行し失明に至ることがあります。
●失明の原因疾患
- 緑内障 20.9%
- 糖尿病網膜症 19%
- 網膜色素変性症 13.5%
- 加齢黄斑変性 9.3%
●糖尿病網膜症は4つの病期に分類されます
糖尿病網膜症は網膜血管の変性や血流障害が進行することで発症・悪化し、進行度によって以下の4つの病期に分類されます。
- 網膜症なし
- 単純網膜症
- 増殖前網膜症
- 増殖網膜症
網膜症なし・単純網膜症の段階では血糖コントロールや高血圧の治療を行うことで、増殖前網膜症・増殖網膜症への進行を阻止または遅らせることができます。
●増殖前網膜症以降では眼科医による治療が必要となります
増殖前網膜症以降では眼科医による治療が必要となります。このため、糖尿病の方は眼科への定期通院が必要となります。
受診間隔の目安は以下の通りです。
- 網膜症なし・・・1年ごと
- 単純網膜症・・・6か月ごと
- 増殖前網膜症・・・2カ月ごと
- 増殖網膜症・・・1ヵ月ごと
血糖コントロール不良である方が急激に血糖を改善させると糖尿病網膜症を進行させてしまう場合があり、慎重に管理を進める必要があります。また糖尿病患者では妊娠中や産褥期に網膜症が悪化することがあるため、妊娠前から産科医・眼科医ともに把握しておかなければなりません。
糖尿病性腎症
糖尿病では腎臓にも網膜症と類似した血管障害が生じ、構造の破壊と機能障害が起こります。網膜症が進行し失明することがあるように、糖尿病性腎症が進行し腎不全・透析に至るケースが多くみられます。そのため糖尿病性腎症の管理・進行抑制はきわめて重要です。糖尿病性腎症は以下の5つの病期に分類されます。
病期 | 尿アルブミン・クレアチニン比(UACR) 尿中タンパク・クレアチニン比(UPCR) |
推算糸球体濾過療(eGFR) |
---|---|---|
正常アルブミン尿期(第1期) | UACR 30未満 | 30以上 |
微量アルブミン尿期(第2期) | UACR 30~299 | 30以上 |
顕性アルブミン尿期(第3期) | UACR 300以上 UPCR 0.5以上 |
30以上 |
GFR高度低下・末期腎不全期(第4期) | 問わない | 30未満 |
腎代替療法期(第5期) | 透析療法中または腎移植後 | – |
腎症の進行防止のためには、肥満の改善や禁煙とともに血糖・血圧・脂質管理が最も重要であり、早期から正しく治療することで寛解する場合があります。
糖尿病性神経障害
糖尿病による神経障害には多発神経障害と単神経障害があり、高頻度にみられるのは多発神経障害です。
●多発神経障害
高血糖状態の持続により起こるもので、主に両足の感覚・運動神経障害と自律神経障害が生じます。進行すると感覚が鈍くなり、足の潰瘍・壊疽の原因となり危険です。
●単神経障害
突然に起こる単一の神経に限局した障害です。動眼神経・滑車神経・外転神経麻痺による外眼筋麻痺や、顔面神経麻痺が多くみられますが、95%以上のケースでは3か月以内に自然に寛解します。単神経障害の発症は、糖尿病の罹患年数や血糖コントロールに関わらず生じます。
動脈硬化疾患
糖尿病は動脈硬化の危険を高める病気であり、メタボリックシンドロームや喫煙があればさらに危険が増加します。
●冠動脈疾患
欧米では糖尿病患者の40~50%が心筋梗塞によって死亡しています。
心筋梗塞では通常胸痛や締め付け感、息苦しさなどを自覚しますが、糖尿病患者ではこれらの症状が現れにくく、すでに病変が進行している場合が多く心不全や不整脈を起こしやすく危険です。
●脳血管障害
糖尿病の方はそうでない方と比べて脳梗塞の発症頻度が2~4倍です。発症予防のためには、早期からの血糖コントロールが重要です。
●末梢動脈疾患(PAD)
糖尿病の方の10~15%にみられる高頻度な疾患です。下肢の動脈硬化によって血流が低下し、下肢の皮膚温度の低下や下肢の動脈拍動が弱いまたは消失といった症状がみられることがあります。
●糖尿病性足病変
糖尿病の方では、さまざまな機序によって足に病変がみられるケースが多いです。足の指や爪の白癬(水虫)がみられたり、感覚低下によって足の傷や熱傷などに(痛くないので)気づかずに重症化し潰瘍・壊疽などに至ったりすることがあります。
低血糖
血糖値が70mg/dL未満で、動悸・発汗・脱力・手や指のふるえ・顔面蒼白・不安感などの交感神経刺激症状がみられる場合には低血糖と診断します。さらに血糖値が50mg/dL以下にまで低下した場合には意識障害・異常行動・けいれんなどを生じ昏睡に至ることがあり危険です。
糖尿病治療中に高頻度でみられる緊急事態で、早急な対応が必要です。
低血糖が起こる原因はさまざまですが、日常的には薬剤の種類・量の間違い、食事の遅れや摂取不足、過度の運動、飲酒、入浴などが挙げられます。

低血糖時の対応の原則は早急な糖分の補給です。経口摂取が可能であればブドウ糖を含む飴や飲料水を摂取し、不可能であればグルカゴン注射があれば周囲の人間が投与し、すぐに主治医または医療機関へ連絡します。日頃から主治医へ低血糖時の対応についてしっかり確認しておくことが大切です。