手足のしびれ・腰痛・ヘルニアなど
院内MRIで即時検査が可能です
脊椎とはあたまを支える首(頚椎)に始まり、背中(胸椎)、腰(腰椎)を経てお尻(仙骨・尾骨)へとつながる、身体を支えそして動かす役割を担う非常に重要な構造です。
それだけにこの脊椎には日常生活において大きな負荷がかかることとなります。また、脳から頭蓋骨の外に出た神経を脊髄と呼び、脊椎に守られながらしっぽのほうへと伸びていき、その途中で数多くの枝分かれをして脊椎から出ていき、手や足などの身体のすみずみまでいきわたり筋肉の運動や皮膚の感覚、そして内臓の機能までも支配します。
脊髄・脊椎疾患の症状
腰痛、手足のしびれ、神経痛、さらには事故やケガの後遺症など、多くの方が脊髄・脊椎疾患による症状に悩まれています。
大きく脊椎による症状と、神経による症状の2つに分けられます。
脊椎症状
腰痛
腰の痛みを指しますが、明確な定義はありません。腰痛の原因にはさまざまなものがあります。脊椎疾患以外にも腰背部の筋肉・筋膜、神経系、内臓、血管、精神的・心理的要因によっても腰痛は起こります。実際の診療においては診察や検査によっても腰痛の原因を明らかにできない場合も多く、“腰痛の原因がわかるのは15%程度”といわれることもあります。こうした腰痛の多くは自然治癒が期待できるため、精査よりも治療を優先させるべきです。
一方で椎間板や神経根の障害によっても腰痛が生じ、専門的な治療を要する腰痛としては高い頻度でみられます。
頚部痛・肩こり
肩こりは頸部・肩甲部・背部の筋緊張をともなう苦痛な状態であり、「ハリ」「コリ」と表現されます。明確な定義はありません。僧帽筋・頭板状筋・肩甲挙筋・棘上筋・棘下筋・大菱形筋・小菱形筋などの首から肩や背中にかけての筋肉に圧痛があったり、押すことで痛みとともに開放感を感じたりすることがあります(痛気持ちいい感じ)。
一方で頚髄・頚椎疾患がある場合には頚部痛が首の運動とともに増悪することがあります。他にも肩関節に由来するものや、眼・耳鼻いんこう系、歯科口腔系、精神疾患による痛みなどがあります。
可動制限
脊椎は前後屈、側屈、回旋の6方向の運動が可能であり、これらの運動の組み合わせによってあたま(視線)をいろいろな方向へ向け、手をいろいろな方向に動かし、多様な動きが可能となっています。脊髄・脊椎疾患によりこうした運動が制限されることがあります。
姿勢異常
脊椎は前後から見るとまっすぐですが、左右横から見るとまっすぐではなく前後に波面のようにゆるやかに曲がっています。頚椎では前方に、胸椎では後方に、腰椎では前方に、仙椎では後方に曲がっているのが正常です。(頚椎前弯、胸椎後弯、腰椎前弯、仙椎後弯)そして脊柱を構成する要素である椎体、椎間板、靭帯などに異常を生じると、この正常な形に変形が生じます。
背骨が左右に変形し胴体が左右に歪む側弯症や、高齢者の背中・腰曲がり、スマートフォンの見過ぎ(うつむくように首を前に曲げる時間が長い)で生じるストレートネックなどがその例です。
神経症状
感覚異常
脊髄・脊椎疾患により神経が障害されて生じる症状がいくつかありますが、その中で頻度が高いものが感覚系の症状です。感覚の異常は異常感覚、錯知覚、感覚過敏、感覚鈍麻、感覚消失などに分けられます。
下記のような感覚異常は脊髄、神経根、後根神経節の障害で生じます。
●異常感覚
- いわゆる「しびれ感」のことで、最も頻度の高い感覚症状です。外部からの刺激によらない自発的な感覚であり、“ビリビリ”“ジンジン”“ピリピリ”などと表現されます。
●錯知覚
- 外部からの刺激による感覚ですが、その刺激とは異なった感覚を感じることです。(例)触られた時に冷たく感じる
●感覚過敏
- 本来の刺激の強さ以上に強く感じることです。しばしば錯知覚を伴います。
●感覚鈍麻・感覚消失
- 逆に本来の刺激の強さよりも鈍く感じる、あるいは刺激があるにも関わらず全く感じないことです。診察においてはよく「ここ触ってるのはわかりますか?」と尋ねられます。
神経痛
脊髄・脊椎疾患において、しびれ感と並びよく遭遇する症状です。脊髄または神経根の障害によって起こり、それぞれ脊髄障害と神経根障害に分けられます。
●脊髄障害
- 傷害された脊髄の高さより末梢の部位に自発痛、締めつけ感、正常では痛いと思わないぐらいの刺激でも痛いと感じる、異痛症(アロディニア)などの症状がみられます。
●神経根障害
- 脊髄から分岐した根っこの部分で障害された神経の分布領域に生じる痛み、しびれ、感覚鈍麻などです。頚椎ヘルニアによる手や指のしびれ感、腰椎ヘルニアによる坐骨神経痛(お尻から太ももの外側や膝にかけての痛み)などはその代表例です。運動麻痺を伴う場合があります。
運動麻痺
手足を動かしにくくなる症状です。筋肉がこわばって固まるように動かしにくくなる場合(痙性麻痺)と、逆に筋肉が弛緩して力が入りにくくなる場合(弛緩性麻痺)があります。感覚障害を伴うことが多いです。
歩行障害
脊髄・脊椎疾患によって起こる典型的な歩行障害として、痙性歩行と間欠性跛行があげられます。
●痙性歩行
- 速く歩けない、走れない、階段の昇り降りがこわいといった訴えがみられます。歩幅が小さくなり、歩行時に持ち上げているほうの脚は膝の曲がりが浅く足首から先が下に垂れるようになります。
●間欠性跛行
- これは一定距離を歩くと脚にしびれや痛みが出現し、一旦休まないと歩行を続けることができなくなるものです。しばらく休憩すると再び歩けるようになりますが、しばらくするとまたしびれや痛みが出現し、これを繰り返します。安静時(何もしていない特)には無症状であることが多いです。
排尿・排便障害
脊髄・脊椎疾患の病状が重度であるか否かの指標の一つになるのが、この排尿・排便障害があるかどうかです。一般的に脊髄・脊椎疾患によって排尿・排便障害が出現している場合には、なるべく早期の手術が推奨されます。
その理由のひとつは、膀胱の機能は多くの神経によって維持・調節されており、そこに障害が出ているということは、多くの神経に障害が及んでいるということになるためです。もうひとつの理由は排尿・排便障害はさまざまな行動制限を要することになり、さらに感染症などの合併症を起こすことにもなり障害度が高いと考えられるためです。
その他の症状
上記のほかに頭痛、めまい、前胸部痛、自律神経症状などがみられる場合があります。
脊椎の病気は脳神経外科? 整形外科?
脳の病気は脳神経外科医しか手術をしませんが、脊髄・脊椎の病気は脳神経外科医だけでなく整形外科医も手術をします。
昔、診療の対象となっていた脊椎疾患は感染症と外傷(ケガ)でした。この感染症や外傷は四肢(手足)に多く、その治療法は過去においては安静(固定)が唯一のものでした。手足の骨や筋肉の感染症や変形を扱う流れのなかで、整形外科医が脊椎疾患の診療を担うことになりました。一方でX線が開発される以前の1892年にHorsleyという外科医が頚椎症の患者に対して頚髄(神経)の圧迫を取り除くために頚椎(骨)の一部を削除する手術を行ったときに、頚椎(骨)が頚髄(神経)を圧迫しているのを確認しました。こうして神経に対する外科治療の専門化が進められる流れの中で、脳神経外科医がその活動の一部として脊髄・脊椎疾患を扱うようになりました。
現在、たとえば腰椎ヘルニアを脳神経外科と整形外科のどちらが診療するかといえば、答えとしては“どちらの科でも診療する”です。どちらの科のほうがより良いということはありませんし、地域性や医療機関ごとの診療体制も大きく関わります。脳疾患しか診療しない脳神経外科(脊椎疾患は整形外科にお任せ)、手足や骨盤の疾患しか診療しない整形外科(脊椎疾患は脳神経外科にお任せ)、脳疾患も脊椎疾患も診療する脳神経外科、手足・骨盤・脊椎すべて診療する整形外科などさまざまであり、お住まいの地域の医療機関がどういった診療体制になっているのかによります。そのため“初診で整形外科を受診したが、手術による治療が好ましいとなった段階で脳神経外科へ紹介される”あるいはその逆、ということはよくあることです。脊椎・脊髄センターを標榜している施設も全国に多くあり、脳神経外科または整形外科、あるいはその両方の外科医師が診療にあたっています。
変性疾患『頚椎椎間板ヘルニア』
頚椎症性変化は30歳代以降にみられ、男性は女性の2倍ほどとされています。第5/6頚椎椎間(C5/6)に初発し、第4/5頚椎椎間(C4/5)あるいは第6/7頚椎椎間(C6/7)が続き、加齢とともに複数の椎間にみられるようになります。社会高齢化にともない、多椎間頚椎症の高齢者が増加しています。
症状
後頸部や肩の痛み、進行すると手や腕のしびれ・感覚鈍麻・力の入りにくさ、さらには痙性歩行や排尿・排便障害などがみられるようになります。
検査
身体診察に加えて、MRIで神経の圧迫程度や椎間板や靭帯の変性程度を、単純X線検査で頚椎(骨)の状態を評価します。
●頚椎椎間板ヘルニアのMRI画像
治療
症状や検査結果をもとに重症度を判定し、軽症であればまず保存的治療が選択されます。保存的治療による改善がみられず進行性である場合、日常生活への支障が大きい場合、排尿・排便障害などを認め神経の圧迫が重度である場合などは手術が必要となります。
変性疾患『腰椎椎間板ヘルニア』
20〜40歳代に多く、男性では女性の2倍の発症頻度です。起こりやすい部位は第4/5腰椎椎間(L4/5)、第5腰椎/仙骨椎間(L5/S1)です。
症状
急に起こる激しい腰や下肢(脚)の痛みが特徴的です。腰痛と下肢痛は同時に起こることもあれば時間差で起こることもあります。また下肢痛は左右どちらか片側のことが多いですが、両側に起こることもあります。発症早期には椎間板に荷重がかかると痛みが増強するため、立ったり座ったりできないことも多いです。さらに腰の前屈動作(前かがみ)や座った時に下肢の痛みやしびれが増強することがあります。
多くの場合で腰痛や下肢痛は自然に改善する傾向にあり、MRI検査ではヘルニアが小さくなったり消えたりする例もあります。
※坐骨神経痛: 腰椎椎間板ヘルニアなどさまざまな腰の病気によって生じる、お尻から下肢へひびく痛みの総称です。下肢の外側や背側に痛みが生じることが多いです。
検査
身体診察に加えて、MRIで神経の圧迫程度や椎間板や靭帯の変性程度を、単純X線検査で頚椎(骨)の状態を評価します。
●腰椎椎間板ヘルニアのMRI画像
治療
腰椎椎間板ヘルニアによる症状は80〜85%の方で自然に改善・消失します。そのためまずは保存的治療(安静、姿勢の工夫、マッサージ、整体、薬物療法など)を行います。保存的治療の目安は約3ヵ月です。3ヵ月の間に症状の改善がなく、日常生活へ大きな支障をきたす症状が残っている場合には手術が検討されます。3ヵ月以内であっても痛みや日常生活への支障が高度である場合や、下肢の運動麻痺や排尿・排便障害を認める場合には早期の手術が望ましい場合もあります。
外傷性疾患『脊椎(骨)の損傷』
頚椎損傷
頚椎は可動範囲が大きくあらゆる方向に動くことができるため、さまざまな損傷が起こりえます。頚椎の骨折や脱臼、またそれらの合併などが挙げられます。
頸部捻挫(むち打ち)
自動車乗車時の後方からの追突などの自動車事故を始め、転倒による頭部打撲など実にさまざまな外傷で生じます。高齢者だけでなく若年者やこどもにも頻繁にみられます。典型的な症状は頚部痛ですが、外傷直後あるいは経過の途中からめまい、頭痛、耳鳴りなど多彩な症状が加わることがあります。MRIや単純X線検査線などの画像検査では骨折・脱臼・神経損傷などの異常を認めません。
また外傷を受けた後に頸部痛をはじめとしてさまざまな症状が残った状態を外傷性頸部症候群と呼びます。
高齢者の頚椎損傷
高齢者では加齢にともないバランスの悪化や筋力低下のため転倒しやすく、また骨粗鬆症の合併により骨折を起こしやすいです。骨折は手足の骨だけではなく、頚椎にも起こりやすくなっています。高齢者における頚椎骨折による死亡は30〜50%と、大腿骨骨折と並んで高率となっています。
一方で高齢者における頚部損傷の特徴として、脱臼・骨折などの骨傷がないにもかかわらず頚髄(神経)損傷が生じる非骨傷性頸髄損傷があります。これは加齢にともない頚椎椎間板ヘルニアや後縦靭帯骨化症などの頚椎症性変化が多くの椎間で起こっているためそもそも頚髄(神経)が圧迫を受けやすくなっているところに新たに急激な外傷が加わることで容易に頚髄が損傷を受けるものです。MRIや単純X線検査を行うと、骨折や脱臼がないにもかかわらず頚髄に損傷が認められます。
胸椎・腰椎損傷『脊髄(神経)の損傷』
さまざまな脊椎(骨)損傷によって脊髄(神経)が損傷を受けると、痛み以外にもさまざまな神経症状が出現します。事故やスポーツなどにおいて重大なケガによって下半身不随や寝たきり・車椅子生活になってしまう例というのはこれに該当します。脊髄損傷を認める場合には緊急入院や早期手術が必要となります。
局所症状
損傷部位の痛み、変形、腫れなどが生じます。
神経障害
損傷した部位を含めそれより遠位(例えば腰のケガでは腰を含めた下半身)の運動麻痺、感覚障害が生じます。
脊髄ショック
損傷を受けた直後ではすべての脊髄反射が消失し、手足が全く動かなくなることがあります。これを脊髄ショックといいます。しかししばらくすると少しずつ動きや感覚が戻ってくる場合があります。よって脊髄損傷を受けた場合、脊髄ショックから抜けた後のタイミングでないと正確な予後診断ができない点に注意が必要です。(事故で救急搬送された直後に両脚が全く動かないからといって「もう歩くことは難しい」とはいえません。)
呼吸・循環障害
頚髄や胸髄の損傷では、横隔膜の動きを支配する神経が障害されて腹式呼吸ができなくなったり、血圧や脈拍を維持する交感神経が障害されて血圧や脈が減ったりすることがあります。体温調節が障害されることもあります。
排尿・排便障害
脊髄損傷ではほぼ必ず出現するとされています。尿意や便意を感じなくなる、自力で排尿・排便できなくなる、または逆に失禁するなどの症状がみられます。